悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))

悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))

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新潮社
価格: ¥740

悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))のレビュー

そんな人じゃなかった
「悪女なんて・・・、彼女はそんな人ではなかった」
いろいろな人の視点から浮き彫りにされる女の姿。
一つ一つを聞けばすごくいい人だったり、悪女だったり。
でもいい人だったというのは大体が男性で、
それぞれを並べると矛盾が生じていく。
幾つもの顔をもつ彼女が、いろんな人に「彼女はそんな人間ではない」と
思わせることができたのも、ある意味で一つのことを極めた人生なのかなとも思う。
悪女と天使、娼婦と無垢、飽きないストーリー
本当の名前も、本当の親もある意味捨てた女ー鈴木君子(富小路公子)。
戦後の混乱期を才覚と悪智で巨万の富を得、TVでコメンテーターになっては多くの
崇拝者を得、最後の最後まで美しい女であることと、宝石をはじめとして美しいものに
固執した虚に満ちた人生を彼女を知る27人の語り部によって綴ったストーリーです。

彼女自身は語らない点と巨万の富を築いたプロセスが数人によって少しずつ、バラバラ
に明かされていく読者をワクワクさせる手法は圧巻でした。

「悪女について」という大胆な題名でありながら、悪女の間に天使の彼女が存在し、
娼婦の彼女と無垢な女が混在するため、最後の最後まで愉しめました。読み終わってから、
また前半に戻って悪女ぶりを読み返したほどです。

彼女自身が自分を告白することはないので、それぞれの語り部が彼女に対するそれぞれ
の思いを綴る(吐き出す)わけですが、人という複雑な多面性をうまく引き出している
と思います。彼女の苦悩は、極度の不眠症という生活習慣病だけに閉じ込められて
心情を伺うことは出来ません。幸せな一生だったのでしょうか?

実業家としての確かな才覚があっても、年齢だけは生涯嘘を突き通したところなど
可愛いものです。

また、昨今の美しい筋肉をつけたセクシーなボティへの流行とは異なり、柔らかい
体でいるため筋肉をつけないよう運動をしない努力なども、美への考察が違い
書かれた時代と現代の差を面白く思いました。

それに、手玉にとった男性より、養った男性が圧倒的に多い悪女だったようです。
それも才能ですね。
しかし、男性によって性生活においても全く異なる反応をみせるなど、大変な努力家
だと思います・・・脱帽。悪女にはなれそうにありません・・・・(笑)

その凄まじい憎悪に、息苦しくなる
極貧というほどでもなく、天涯孤独でもなく、被差別というわけでもなく、おそらく当時としてはありふれた家庭で育った主人公。しかし彼女にはそれが許し難いものだった。
しみったれた生活にがさつな母親。この私がこんな境遇に置かれていいはずがない、こんな女が私の親などであるはずがない。
私は、高貴な筋の落し胤。裕福な家庭で上品な家族に愛され育った。美しいものだけに囲まれて。

そして彼女は現実の自分を根絶やしにしていく。
自身の出自に対する執拗なまでの憎悪を以って。

人を騙すには先ず自分から。そうするううちに妄想と現実との境目などなくなる。
他人が捏造呼ばわりしようが何を言おうが、自分がそう有りたいと望む世界だけが彼女にとっての真実となった。
続きが気になってしょうがない!
多くの人が生前の主人公について回想します。
主人公はどうやら悪女のようなのですが、読み終わっても、主人公が嘘をついて成りあがって行ったような悪女には思えず、なんだか私まで主人公に騙されたような気分です。
ドキドキしながら一気に読んでしまいました。
そして、読み終わってすぐに、もう一度読みたくなりました。
何度読んでも、色褪せません。
秀作です。
,ホンモノとマガイモノ
善悪と言う単純な物ではなく、もっと奥の深い、アイデンティティにとらわれた人間の悲しみを感じました。

ホンモノのダイヤや偽者の模造ダイヤを手玉に取って、偽者と判断した相手には徹底的に騙して、お金を絞りあげ、ホンモノには尽くす。でも、例えホンモノでも、自分を傷つけたら、結局復讐をしっかり果たす。その裏に血統でホンモノと偽者を分け、お金は不純なものとしながらも、貪欲にお金まみれになろうとする、雑種である自分への憎悪が見え隠れして、面白い。

ダイヤもガラス玉もどちらがホンモノかは人間が勝手に決めた事。ホンモノも偽者もないと、はっきりと自分の値打ちを認められたら、本当に自分を大事に思ってくれている人達に目を向け、本当は、何が大事か気づく事が出来たのではないでしょうか?

学歴や車、挙句は子供の成績まで人と競っている現代人を揶揄しているように感じました。

全部の血を入れ替えても、名前をいくら変えても、所詮は何かを基準にして、ホンモノやマガイモノにこだわっている限り、幸せになれない事を気づいていればと、結末を読んで虚しい気持ちになりました。